道しるべになった保護者の言葉③ ― おやつがつないだ日常の工夫
(シリーズでお届けしています。)
1回目はこちら:道しるべになった保護者の言葉
2回目はこちら:支援がシンプルに戻っていく
環境を整えればすべてがうまくいくと思っていた私が、現場で思いもよらない壁に。
その延長で、今でも鮮明に覚えているのが「おやつの提示」をめぐる試行錯誤です。
保育園でのひらめき
ある児童を保育園に迎えに行ったとき、出入口に置かれたごはんの見本がパッと目に飛び込んできました。
実はそれまでも、自分の息子を迎えに行くときに何度も目にしていた光景。その頃は「今日のごはんは、これだったのか~」ぐらいで、気にとめることもありませんでした。ところが、事業所で試行錯誤を繰り返していた時期だったからでしょうか、その日は違って見えたのです。
「これだ、これがやりたかったんだ」と心の中で弾けるように思い、次の日から早速取り入れることにしました。
食育への思いと現実の壁
実物を見せれば子どもたちにも分かりやすいし、食育にもつながる。
そんな期待を込めて、おにぎりや果物を見本として並べました。「子どもたちに食べ物への関心を持ってほしい」という願いもありました。
しかし現実には、ほかの業務もある中で、準備や食べ残しへの対応に追われ、全体のバランスが崩れてしまいました。やっていること自体は間違っていないはずなのに、どこかアンバランスさを抱えた取り組みになっていたのです。
子どもたちの予想外の行動
それだけでは終わりません。
見本を置いておくと、いつの間にか少しずつなくなっているのです。あとで気づくと、子どもたちがつまんで食べてしまっていた…
「えー?」とがっかりする一方で、子どもたちにしてみれば当然のこと。
食べ物が目の前にあれば手が伸びるのは自然な反応です。
でも現場では、そのたびに私もスタッフも注意せざるを得ず、雰囲気がちぐはぐになってしまいました。
あの手この手の工夫
なんとかしようと、手の届かないところに置いたり、逆に「あえて自由に食べられるように」してみたり。「まだ食べないよ」と声をかけたり、「見本です」と張り紙をしたり。
でもどの方法も長続きせず、どこか不自然な関わりになってしまいました。
工夫したはずなのに、結局はスタッフも子どもも落ち着かない。
そんなジレンマを感じながら、私は次第に「これはちょっと、さすがにな…」と思い始めました。
思い切ってやめてみたら
そしてある日、ついに「ダメだ」と思って見本を置くのをやめたんです。
すると今度は、子どもたちが「今日のおやつは何?」と、何度も聞いてくるようになったのです。
拍子抜けするような気持ちでしたが、正直、ほっとした「これはこれでいいのかもしれない」と不思議な感覚でした。
子どもたちにとっては、聞くこと自体が大事な関わりになっていたのです。
私が「整えて見せなきゃ」と思い込んでいたものが、むしろ子どもたちの主体的な声を奪っていたのかもしれません。
この経験から思うこと
支援の工夫は、形にこだわればこだわるほど現場で浮いてしまうことがあります。
おやつの見本は失敗に終わりましたが、「やめたら生まれたやりとり」こそが、子どもたちにとって本当に意味のある時間だったのではないか――
そう気づかされた出来事でした。
コラムについて
日々の活動の中で出会った出来事や心に残った一言、小さな気づきを綴っていきます。それぞれの立場にとっての学びやヒントになれば嬉しく思います。
著者プロフィール
こどもサポート はるかぜ 代表
保護者や子どもたちと日々向き合いながら、運営や経営の立場からも支援のあり方を考えてきました。これまで、人に話すのもためらうような失敗もあれば、思わず飛び上がるような成功も経験してきました。
そうしたリアルな瞬間や運営の中で見えてくる課題を、できるだけ等身大の言葉でお届けしていきます。
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