発達支援は“流行”なのか?

半年に一度、子どもの成長を関係者で振り返る「モニタリング」。その日は授業を終えた子ども本人の声も聞こうとしていました。

短い休憩の合間、ベテランの先生が私に声をかけてきました。
「発達支援って、今のはやりですか?」

その先生にとって「流行」という言葉は、軽い響きではなく、教育の流れを長く見てきた人だからこその問いかけに思えました。

その一言に、返事をためらったのを覚えています。
その先生は会議の場ではいつも「普段通りです」「頑張ってます」といったシンプルな言葉で子どもの様子を語る方でした。

私も何度か授業を見学したことがありますが、そこで伝わってきたのは、シンプルさの裏にある確かな思いでした。

小1の男の子には「車の免許をとればかっこいい大人になれるよ。そのためには小4までの勉強で十分だよ」と未来を描かせる声かけをしたり、教室では「できることは自分でやってごらん」と背中を押したりしていました。

だからこそ、あの場で口にした「はやり」という言葉には、独特な重みを感じました。

たしかに支援のあり方には時代ごとの“流行”のようなものがあります。
新しい言葉や制度が登場すると、関心が一気に高まり、“今こそ必要なこと”と強調される。

けれど同時に、昔からそうした子どもは身近にいて、誰かしらが自然と支えてきたはずです。

教育の取り組みでいえば、「食育」や「朝の読書」がそうかもしれません。
もともと各地で自然に行われていたものが、ある時期から一気に広がり、「やらないと遅れてしまう」という空気まで生まれる。

発達支援もそれに似ていて、“新しいもの”のように見えながら、実はずっと続いてきた先に、いまの支援があるのだと思います。

そのことに気づいたとき、私は「特別支援」という言葉がもつ響きにも立ち止まりました。


特別な枠を設けることは必要なときもありますが、日常の中で自然に支え合う関わりもまた同じくらい大切です。学校とデイサービスでは役割が違うからこそ、同じ支援でも見える意味が変わってくる。

結局のところ――
「発達支援は流行ではなく、そこにいる子どもたちに光を当てるための言葉」なのだと、私は強く感じたのです。


こうした先生とのやり取りを振り返ると、支援のあり方も時代によって表情を変えてきたことに気づかされます。

ここで、制度や現場の変化を少し整理してみます。

補足①:支援の背景にある制度の流れ

発達支援の背景には、社会全体の制度の動きがあります。大まかな節目を押さえておくと、いまの支援がどこから続いてきたものなのかが見えてきます。

年代制度・施策の動きポイント
1990年代養護学校義務化など、特別支援教育の整備障害のある子どもの教育環境が法的に保障され始める
2005年発達障害者支援法の施行発達障害が初めて法律で位置づけられる
2007年特別支援教育の本格実施通級指導教室や特別支援学級の拡充が進む
2012年障害者総合支援法、児童福祉法改正放課後等デイサービス・児童発達支援が制度化
2020年代合理的配慮の義務化、インクルーシブ教育の推進学校と福祉の連携がさらに求められる時代に

制度は移り変わっていきますが、子どもたちの存在そのものは昔から変わらずそこにある。流行のように見える支援も、その背景を知ると「続いてきたものの延長」であることが分かります。

補足②:現場での変化をたどると

1990年代 ― 分けて守る時代

  • 養護学校への就学義務化が進み、「守られる場」が整えられていった。
  • その一方で、通常学級との間には大きな壁があり、先生方も「ここから先は専門の場」と線を引く傾向が強かった。
  • 保護者は「普通学級にいさせたい気持ち」と「特別な場で守ってほしい気持ち」の間で揺れていた。

2005年 ― 発達障害者支援法

  • 「発達障害」という言葉が広く知られるようになった。
  • 保護者の中には診断を求める動きが急増し、学校側は「どう対応すべきか」と戸惑いも。
  • 先生方の間では「グレーゾーン」という言葉が頻繁に使われるようになり、支援の線引きに悩む場面が増えた。

2007年 ― 特別支援教育の本格実施

  • 通級や特別支援学級の拡充により、支援の場は広がった。
  • 一方で通常学級の先生からは「やることが増えた」という声も少なくなかった。
  • 支援員が配置されるようになり、現場は「分担して支える」方向へシフトしていった。

2012年 ― 放課後等デイ・児童発達支援

  • 学校外でも子どもを支える仕組みが一気に広がった。
  • 保護者は「居場所ができた」と安心した半面、「どの事業所が本当に子どもに合うのか」迷う姿も増えた。
  • デイの職員と学校の先生の間で、子どもの様子をどう共有するかが課題になった。

2020年代 ― 合理的配慮とインクルーシブ教育

  • 「誰にでも支援は必要」という考えが広まり、障害の有無に関わらず配慮する意識が浸透。
  • 先生たちは「対応しなければ」というプレッシャーを抱えながらも、チームで取り組む姿勢が少しずつ育ってきた。
  • デイと学校の連携は当たり前のように語られる時代に入り、「つなぐ支援」がより求められている。

コラムについて

日々の活動の中で出会った出来事や心に残った一言、小さな気づきを綴っていきます。それぞれの立場にとっての学びやヒントになれば嬉しく思います。

著者プロフィール

こどもサポート はるかぜ 代表 
保護者や子どもたちと日々向き合いながら、運営や経営の立場からも支援のあり方を考えてきました。これまで、人に話すのもためらうような失敗もあれば、思わず飛び上がるような成功も経験してきました。
そうしたリアルな瞬間や運営の中で見えてくる課題を、できるだけ等身大の言葉でお届けしていきます。
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