即興の対応に意味はある?
(シリーズでお届けしています。)
前回はこちら:支援に“正解”はあるのか?
支援の現場をふり返ると、「計画どおり」よりも「その場で切り替える」ことの方が多いと感じます。
活動の途中で雰囲気が崩れたり、思わぬトラブルが起きたり。そんな時に私たちは、迷いながらもとっさに判断して動くことも多いのではないでしょうか。
一見すると「場当たり」に見えるこの即興の対応こそ、支援の本質に近いのではないか、と考えています。
即興が生まれるとき
- 集中が切れたとき
工作に取り組んでいた子が「もうやらない!」と投げ出す。
→ とっさに「じゃあ色を塗るだけにしてみる?」と提案し、参加のハードルを下げる。
- ケンカやトラブルが起きたとき
遊びの中でおもちゃを取り合い、泣き出す子が出る。
→ 「順番をジャンケンで決めよう」と即席ルールを示し、その場を収める。
- 計画が合わなかったとき
外遊びを予定していたけれど、子どもたちが疲れていてテンションが低い。
→ 「今日は室内で製作をしよう」と流れを切り替える。
こうした場面は、現場にいると日常のように起こります。
キャリアによって変わる即興力
・初任者
その場の雰囲気に押されて「なんとかしなきゃ」と反応的に動くことが多い。
勢いや直感で対応するので、後から「もっと他の方法があったかも」と気づくことも多い。
・中堅スタッフ
過去の経験から「こういう時はこの手がある」と選べる引き出しが増えている。状況に応じて複数の選択肢を持ち、子どもに合わせて切り替えやすい。
即興の後に「なぜそうしたか」を言葉にできるようになってくる。
・ベテラン
子どもの小さなサインから先を読み取り、即興に見えても実は予測を含んだ判断をしている。
「待つ」ことや「やらない」という選択も即興の一部として使える。
他のスタッフの即興も受けとめて全体を調整できる。
即興はキャリアが深まるほど「反応的」から「予測的」へと変わり、質が磨かれていくのです。
即興は思いつきではなく、積み重ねの産物
即興といっても、まったくの思いつきではありません。
その背後には、いくつもの積み重ねがあります。
- 日々の観察
子どもの小さなサインを見てきたからこそ、とっさの判断が可能になる。
- 経験のストック
似た場面での成功や失敗の記憶が、次の対応の引き出しになる。
- 信頼関係
普段の関わりから、子どもも大人の提案を受け入れやすい。
- チームでの学び合い
他のスタッフの声かけや工夫から学び、自分の即興に生かしている。
つまり即興は、空から降ってくるものではなく、日々の積み重ねに裏打ちされた柔軟さなのです。
振り返ることで意味が生まれる
即興の対応は、その場限りに見えるかもしれません。
でも本当は「子どもに合わせて柔軟に動く力」であり、支援を支える大切な営みです。
大事なのは、終わった後に「なぜあの時そうしたのか」を振り返ること。
そのプロセスが、即興を「意味のある判断」へと変えていきます。
即興とは柔軟な切替
支援に“正解”はないからこそ、私たちは迷いながら即興の判断を重ねています。
それは場当たり的ではなく、観察と経験、信頼と学びに支えられた柔軟さです。
次回はさらに一歩進めて、「“正解”を超えて――柔軟さが生む支援の道」ということを考えてみたいと思います。
コラムについて
日々の活動の中で出会った出来事や心に残った一言、小さな気づきを綴っていきます。それぞれの立場にとっての学びやヒントになれば嬉しく思います。
著者プロフィール
こどもサポート はるかぜ 代表
保護者や子どもたちと日々向き合いながら、運営や経営の立場からも支援のあり方を考えてきました。これまで、人に話すのもためらうような失敗もあれば、思わず飛び上がるような成功も経験してきました。
そうしたリアルな瞬間や運営の中で見えてくる課題を、できるだけ等身大の言葉でお届けしていきます。
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