「やってみたい」が力を育てる
子どもが「やってみたい」と口にしたとき、その言葉には驚くほど大きなエネルギーが宿っています。
現場にいると、その一言があるかどうかで、挑戦の深まり方や続き方がまるで違うのを何度も見てきました。
ある子から「鉄棒がある公園に行きたい」とリクエストを受けた日のこと。
みんなで出かけると、まわりの子が遊具で遊ぶ横で、その子はひたすら鉄棒に向かい、逆上がりの練習を始めました。
何度も挑戦しましたが、その日は最後まで成功せず。汗をかき、手のひらも少し赤くなっていました。
次の週も「またあの公園に行きたい」と言われたとき、私は「先週も行ったし、今日は違う場所の方がみんな楽しめるかも」と諭すように別の公園へ行ったのです。
その場は普段通り楽しく過ごし、「あぁ、みんな笑顔で遊んでくれた」と安心しました。
けれど後になって、その判断を深く後悔することになります。
数ヶ月後、その子が満面の笑みで「できたよ!」と報告してくれました。
聞けば、あの日から毎週お母さんに頼んで公園に通い、逆上がりを練習し続けていたのだといいます。
「最初は全然できなかったけど、やっと一回できた!」と誇らしげに語る姿に、胸が熱くなりました。
同時に、「なぜあのとき、あの子の“やってみたい”をもっと大事にできなかったのか」と胸が締めつけられる思いがしました。
あのときのリクエストは単なる“行きたい場所”ではなく、自分で挑戦を続けるためのサインだったのです。
小さな「やってみたい」は、時に大きな継続力を生み出します。
それは一度の遊びや活動を超えて、日々の練習や努力を支える原動力になる。
そして「できた!」という瞬間が訪れたとき、その経験は子どもの中で揺るぎない自信へと変わっていきます。
大人にできるのは、その挑戦が安全に実現できるよう環境を整え、見守ること。
「やってみたい」というサインをどう扱うか――それが子どもの未来を形づくる、大切な分岐点になるのだと思います。
同じような場面に出会ったときは、きっと迷わずその「やってみたい」を受け止められるだろう――そう思わせてくれる出来事でした。
子どもたちの挑戦の芽を守れるかどうかは、大人のほんの一瞬の判断にかかっている。
あのときの経験は、今も私の心に強く残り続けています。
コラムについて
日々の活動の中で出会った出来事や心に残った一言、小さな気づきを綴っていきます。それぞれの立場にとっての学びやヒントになれば嬉しく思います。
著者プロフィール
こどもサポート はるかぜ 代表
保護者や子どもたちと日々向き合いながら、運営や経営の立場からも支援のあり方を考えてきました。これまで、人に話すのもためらうような失敗もあれば、思わず飛び上がるような成功も経験してきました。
そうしたリアルな瞬間や運営の中で見えてくる課題を、できるだけ等身大の言葉でお届けしていきます。
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