ありがとうの力 ― 感謝がつなぐ関係
「ありがとう」――この言葉は、軽やかにも重やかにも響く、不思議な言葉です。
あいさつのように気軽に。
仲直りの合図に。
出会いやつながりの始まりに。
旅立ちや別れの場面で。
そして人生の最期を締めくくる言葉にも。
こんなふうに、日常から人生の節目までをつなぐ言葉はほとんどありません。「ありがとう」はまさに“めったにない”言葉ではないでしょうか。
親は自分の子が何かをもらったとき、「はい、ありがとは?」と声をかけます。
生まれて間もないころから、私たちは自然に「ありがとう」という言葉をたくさん聞き、使いながら育ってきました。
ずっと受け継がれているからこそ、違和感なく口にできるのだと思います。
ある日のこと。活動を終えて片づけをしていたとき、一人の子が私に向かって小さな声で「ありがとう」と言ってきました。
ほんの一言なのに、その言葉にふっと支えられる感覚があり、気持ちが穏やかになったのを覚えています。
振り返れば、私自身も「ありがとう」によって何度も力をもらってきました。
「ありがとう」はただのお礼以上の意味を持っています。
一緒にいてくれたことへの感謝
気持ちを伝えてくれたことへの感謝
気づいて声をかけてくれたことへの感謝
こうした言葉が、子どもの「自分の存在が認められている」という安心感に強く結びついているのを実感しています。
「ありがとう」という言葉は、日本語の成り立ちからも特別な響きを持っています。
語源は「有り難し」――つまり「あることが難しい」「めったにないこと」からきているそうで、「当たり前ではないことへの感謝」を表す言葉です。
だから「ありがとう」と口にするとき、そこには「あなたがしてくれたことは特別で、当たり前じゃない」という思いが含まれています。
「存在や行動を価値あるものとして受け取った」という深い承認にもつながるのですね。
大人同士でも同じですよね。
スタッフ間で「ありがとう」と声をかけ合うと、不思議と空気がやわらかくなります。
誰かが頑張った成果を認めるだけでなく、「一緒にいることが心強い」と伝えるメッセージになるから。
「ありがとう」と言われて気持ちが温かくなる瞬間は、大人も子どもも変わりません。むしろ、大人の私たちこそ忘れがちなことを子どもたちが教えてくれているように思います。
ここまで幅広く使えて、人の心を動かすものは他にないのかもしれません。
私にとっては、まさに最強のひとことです。
小さな声かけですが、たくさんの関係をつなぐ大きな力を持っています。
忙しい日常の中で、たった一言を添えるだけで関係がぐっと近づくことがある。
そんな“言葉の力”を、これからも大切にしていきたいですね。
コラムについて
日々の活動の中で出会った出来事や心に残った一言、小さな気づきを綴っていきます。それぞれの立場にとっての学びやヒントになれば嬉しく思います。
著者プロフィール
こどもサポート はるかぜ 代表
保護者や子どもたちと日々向き合いながら、運営や経営の立場からも支援のあり方を考えてきました。これまで、人に話すのもためらうような失敗もあれば、思わず飛び上がるような成功も経験してきました。
そうしたリアルな瞬間や運営の中で見えてくる課題を、できるだけ等身大の言葉でお届けしていきます。
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