比較から自由になる ― 子どもも大人も
子ども同士で過ごす時間の中には、たくさんの“気づき”が隠れています。
できたことを見て「すごいな」と感じたり、「自分もやってみたい」と思ったり。
その一方で、「なんで自分だけできないんだろう」と心が沈むこともあります。
そんな“比べる気持ち”は、子どもにとってごく自然な感情です。
でも、そこからどう関わりが育っていくかは、まわりの大人のまなざし次第で大きく変わります。
比べることで生まれる学び
子どもたちは、友だちの姿を見ながら成長していきます。
「〇〇くんみたいに速く走りたい」「△△ちゃんの描く絵、きれいだな」――
そう思えるのは、自分以外の存在を意識できている証拠です。
運動会のリレーで転んだ子が、泣きながらもまた立ち上がる。
それを見た別の子が「次は僕が頑張る番だ」と言う。
そんな場面が、日常の中にいくつもあります。
社会的比較理論でも、人は他者との違いを通して自分を理解すると言われます。
つまり「比べること」そのものが、学びや社会性の土台になっているのです。
友だちのがんばりを見て、「次は自分もやってみよう」と思える瞬間。
それは、比べることが挑戦のエネルギーに変わるときです。
比べることで生まれるしんどさ
けれど、同じ“比較”でも、時に心をしめつけることがあります。
たとえば、工作の時間。
友だちの作品を見て「すごい!」と感じたあと、ふと自分のを見下ろして黙り込む子。
手が止まったまま、しばらく動けなくなることがあります。
「どうせやっても無理だ」
そんな小さなつぶやきは、比べた結果が“差”として見えてしまったときに生まれます。
集団の中では、「できる」「できない」の線がはっきり見えてしまいがちです。
その空気が積み重なると、挑戦する前から身構えてしまう子もいます。
大人もまた、「あの子は落ち着いてるのに」「あの子はよくできるのに」と
無意識のうちに比較の視点で見てしまうことがあります。
そのまなざしは、子どもたちに驚くほど伝わります。
“比べられている”と感じると、誰でも心が閉じてしまうもの。
子ども同士の関わりの中でも、その小さな違和感が関係を遠ざけることがあります。
自分のペースで歩くということ
比べることを完全にやめるのは、きっと難しい。
だからこそ、「どう比べるか」を変えていくことが大切です。
「他の子と比べて」ではなく、「昨日の自分と比べて」見る。
「できなかったこと」ではなく、「できるようになったこと」を見つける。
昨日より少し早く走れた。
昨日より少し長く集中できた。
その“ほんの少し”が、子どもにとっての大きな一歩です。
また、友だちと“並んでやる”経験は、比較を超える力を持っています。
同じ活動をしながら、それぞれのペースで取り組む。
「一緒にできたね」と笑い合うとき、そこには勝ち負けを越えた安心があります。
違いがあることを前提に関われる関係――
それが、比べる気持ちをやさしく包み込む居場所になるのです。
比較から自由になる3つのステップ
比べる気持ちは、人の中に自然に生まれるものです。
子どもも大人も、つい誰かと自分を重ねてしまう。
でもその感情を否定する必要はありません。
自由になるためには、少しずつ“見方”を変えていくこと。
ひとつ目は、見る方向を変えること。
他人ではなく、自分の変化に目を向ける。
昨日より少しできた、それだけで十分です。
ふたつ目は、関係の持ち方を変えること。
比べ合うより、並んで歩く。
「一緒にやってみよう」と言える関係が、心の安心を育てます。
そして最後は、比べてしまう自分を受け入れること。
「つい気になっちゃうよね」と笑えるようになったとき、
比較はもう苦しみではなく、自分を知るための鏡に変わります。
子どもたちが、そんな関係の中で安心して笑い合えるように。
まずは大人の私たちが、比べることから少しずつ自由になっていきたいですね。
コラムについて
日々の活動の中で出会った出来事や心に残った一言、小さな気づきを綴っていきます。それぞれの立場にとっての学びやヒントになれば嬉しく思います。
著者プロフィール
こどもサポート はるかぜ 代表
保護者や子どもたちと日々向き合いながら、運営や経営の立場からも支援のあり方を考えてきました。これまで、人に話すのもためらうような失敗もあれば、思わず飛び上がるような成功も経験してきました。
そうしたリアルな瞬間や運営の中で見えてくる課題を、できるだけ等身大の言葉でお届けしていきます。
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