遊び心が場を動かす
支援や教育の場では、「まじめに」「きちんと」が大切にされます。
もちろんそれは前提なのですが、どんなに準備を整えても、思うように場が動かないことがあります。
そんなとき、意外にも空気を変えてくれるのは“ほんの少しの遊び心”だったりします。
掃除の時間に起きたこと
年末に近づき掃除活動の時間。
モップを手にしたスタッフが、突然「ミュージカル風」に動きながら歌い始めました。
「お掃除~タイム~♪」と声を伸ばすと、子どもたちは一瞬キョトンとしたあと、笑い出します。
それまで「やりたくなーい」と机に伏せていた子も、笑いながらモップを取りに行ったのです。
その光景を見ながら、私は心の中で「これだな」と思いました。
声かけでも指示でもない、“一緒に楽しむ空気”が場をまるごと動かしていたからです。
場のリズムを変えるのは、ほんの一工夫
誤解されやすいのですが、ここでいう遊び心は“ふざけること”とは違います。
相手を笑わせるためではなく、「緊張をほぐす」「場に風を通す」ための小さな工夫です。
歌ったり、リズムをつけたり、ほんの一言で雰囲気が変わることがあります。
たとえば、掃除の時間を「修行」ではなく「演奏会」にしてしまう。
片づけを「片づけ大会」に変えて、タイマーを“実況”して盛り上げる。
ほんの少し遊び心を混ぜるだけで、子どもたちは自然と動き出します。
不思議なもので、大人が楽しそうにしていると、子どもは“楽しんでいい空気”を感じ取るんですよね。
真面目さの中にある余白
支援の現場は、真剣だからこそ硬くなりやすいものです。
安全の確保、時間の管理、スケジュールの遵守。
大事なことが多いほど、心の余白が削られていきます。
けれど、心の余白がないと、子どもたちの柔らかい変化をキャッチできなくなってしまう。
「今、この子は楽しんでいるかな」「ちょっと疲れてるかも」といったサインは、
余白のある大人にしか見えません。
遊び心は、その余白を取り戻すためのスイッチなんだと思います。
チームに広がる“空気”
掃除のミュージカル以来、他のスタッフも自然に声を合わせるようになりました。
「さぁ~次は机さんのお掃除~!」
「イェーイ!」と返す子どもたち。
気づけば、最初にふざけたスタッフの姿を見て笑っていた私まで、一緒に歌っていました。
“まじめにやる”と“楽しむ”は、決して相反することではありません。
むしろ両方があるからこそ、支援の場は生き生きとします。
子どもたちは大人の背中から、仕事の「やり方」だけでなく、「楽しみ方」も学んでいるのです。
笑いが生まれるとき
笑いが生まれる場は、安心している場でもあります。
笑いが起きるということは、「ここでは失敗しても大丈夫」「自分らしくいていい」というメッセージでもある。
遊び心には、人を解きほぐす力があります。
だからこそ、真面目に支援を考える人ほど、意識して“ちょっとふざけてみる”くらいがちょうどいい。
大切なのは、遊び心が「支援の質を下げる」ものではなく、「関係を動かす」力を持っているということ。
それは笑わせる技術ではなく、「一緒に楽しむ姿勢」です。
真剣に取り組む時間の中に、少しのユーモアを。
正確さの中に、ほんの少しのゆるみを。
そのバランスがとれたとき、場は驚くほど自然に動き出します。
遊び心が場を動かす――
それは、子どもも大人も“心がほぐれる瞬間”を大切にすることなのだと思います。
コラムについて
日々の活動の中で出会った出来事や心に残った一言、小さな気づきを綴っていきます。それぞれの立場にとっての学びやヒントになれば嬉しく思います。
著者プロフィール
こどもサポート はるかぜ 代表
保護者や子どもたちと日々向き合いながら、運営や経営の立場からも支援のあり方を考えてきました。これまで、人に話すのもためらうような失敗もあれば、思わず飛び上がるような成功も経験してきました。
そうしたリアルな瞬間や運営の中で見えてくる課題を、できるだけ等身大の言葉でお届けしていきます。
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