環境の力 ― 場が子どもを育てる

子どもたちの姿を見ていると、「同じ活動なのに今日はなんだか違うな」と感じることがあります。

やる気が増している日もあれば、なぜか集中が続かない日もある。

その違いは、子どもたち自身のコンディションだけでなく、“場の空気”に左右されていることが少なくありません。

たとえば、机を少し離しただけで話し声が減ったり、照明を落とすだけで落ち着いて作業できるようになったり。

反対に、広いスペースに移したら、急に体を大きく動かし始める子もいます。

活動内容を変えたわけではないのに、空間の使い方一つで、子どもの表情ややりとりが変わっていくのです。

そんな経験を重ねるうちに、「環境の力」は想像以上に大きいと感じるようになりました。

環境が語りかける

部屋の明るさ、机の配置、音の響き、そして人の距離感。

どれも言葉を交わす前に子どもたちへメッセージを送っています。

整いすぎた環境は安心を与える一方で、挑戦の余白を奪ってしまうことがあります。

一つひとつが予定通りに動く空間では、「どうすればいい?」と考えるチャンスが減ってしまう。

けれど、少しの曖昧さや“揺らぎ”がある場では、子どもたちは自然と自分の考えを働かせます。

「この遊び、こっちでもできそう」

「ここなら静かに話せる」

そんな“自分から選ぶ力”を、環境がそっと引き出してくれるのです。

たとえば、ある子はいつも隅の棚の近くに座りたがります。

そこは偶然できた小さな空間で、人の流れが少なく落ち着く場所でした。

ある日、「なんでここがいいの?」と聞くと、「静かで考えやすい」と一言。

誰かが意図して作った場所ではなかったけれど、子どもが“自分に合う場”を見つけた瞬間でした。

「場づくり」は大人のまなざしづくり

環境を変えるということは、支援の方向を変えることでもあります。

机の向きを少しずらすだけで、視線の交わり方や会話の流れが変わります。

照明をやわらかくするだけで、子どもの声が落ち着いたりもします。

どんな場をつくるかには、大人のまなざしが映ります。

「どうすれば指示が通るか」ではなく、「どうすれば子どもが動きたくなるか」

その視点に立つと、同じ空間がまったく違う意味を持ち始めます。

以前、自由遊びの時間に机をすべて片づけ、床だけの広いスペースをつくったことがありました。

すると、ブロックやままごとだけでなく、即興のダンス大会や「影を追いかけるゲーム」まで始まりました。

誰も教えていないのに、場が変わると関わりの形も変わる。

環境には、子どもたちの想像力を“解き放つ力”があるのだと気づかされました。

環境は、指導のための“道具”ではなく、子どもが安心して試せる“舞台”。

大人がその意識を持てるだけで、支援の空気は驚くほどやわらかくなるのだと思います。

子どもが場を育てる瞬間

不思議なもので、いったん「いい場」ができると、子どもたち自身がその場を育てていくようになります。

友だちと一緒に工夫を重ね、使い方を変え、思いもよらない発想で空間を広げていく。

最初は大人が整えた環境だったのに、いつの間にか子どもたちの創造力が主役になっている――

そんな場面に出会うたび、「環境の力」は固定されたものではなく、関係性の中で呼吸しているのだと感じます。

“場が子どもを育て、子どもが場を育てる”

それは、支援の理想形に近いのかもしれません。

完璧を目指すより、「心地よく息づく場」を。

静けさもざわめきも、どちらも子どもたちの学びを支える大切な要素です。

環境を“整える”だけでなく、“生かす”視点を持つこと。 それが、私たち大人にできる、ささやかな支援のひとつなのだと思います。


コラムについて

日々の活動の中で出会った出来事や心に残った一言、小さな気づきを綴っていきます。それぞれの立場にとっての学びやヒントになれば嬉しく思います。

著者プロフィール

こどもサポート はるかぜ 代表 
保護者や子どもたちと日々向き合いながら、運営や経営の立場からも支援のあり方を考えてきました。これまで、人に話すのもためらうような失敗もあれば、思わず飛び上がるような成功も経験してきました。
そうしたリアルな瞬間や運営の中で見えてくる課題を、できるだけ等身大の言葉でお届けしていきます。
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