「できない経験」は必要?

子どもにとって「できるようになった!」という瞬間は、大きな喜びです。

けれど振り返ってみると、その背後には必ず「できなかった」時間が積み重なっています。

私たちが日々の現場で出会うのは、挑戦して思うようにいかず、肩を落とす子どもたちの姿です。

「なんでできないんだろう」

「もうやりたくない」

そんな声に触れると、大人の心も揺れます。助けてあげた方がいいのか、それとも、あと少しだけ見守った方がいいのか――迷う場面が何度も訪れます。

ボタンがうまく留められない着替えの時間。

縄跳びで何度も引っかかってしまう遊びの時間。

計算が合わず、消しゴムで何度も消してはため息をつく学習の時間。

「貸して」が言えなくて立ち尽くしてしまう友だちとのやりとり。

どれも子どもたちの日常にありふれた「できない」ですが、その瞬間に立ち会うと、大人は思わず手を差し伸べたくなります。

「できること」を見れば…

子どもが今まさにできていることに目を向けると、そこにすでに備わっている力が見えてきます。

・ 自分で上着を着られた

・ 友だちに「貸して」と言えた

・ 苦手な野菜を一口食べられた

こうした小さな「できること」は、子どもにとって「やればできた」という自信になります。

大人もそれを認めて伝えることで、子どもは「自分にはできる力がある」と感じ、さらに挑戦する意欲につながっていきます。

「できることを見る」は、可能性の存在を照らし出すことですね。

「できない経験」を受け止めれば…

一方で、挑戦しても思うようにできない経験は、可能性を押し広げるチャンスです。

・ 逆上がりができなかった → 練習方法を工夫する

・ 計算問題が解けなかった → 人に聞いて理解する

・ 友だちとケンカして仲直りできなかった → 感情を整理する力を学ぶ

「できない」を否定してしまうとき

ただ、この「できない」に向き合うとき、大人の側が無意識に否定してしまうこともあります。

言葉で突き放す:「なんでできないの?」

比較する:「○○くんはもうできてるのに」

結果だけを責める:「失敗ばかりだね」

機会を奪う:「危ないからやめなさい」

感情を否定する:「泣くほどのことじゃない」

こうした言葉や行為は、子どもに「失敗=自分はダメ」という感覚を残してしまいます。

せっかくの挑戦が「やっぱりやめておこう」という気持ちに変わってしまうのです。

だからこそ大人が意識したいのは、否定ではなく支えに変えること。

「ここまではできたね」

「次はどうすればできるかな」

「悔しい気持ちは大事だよ」

そんな声かけが、できなかった経験はまだこれから伸びていく余白になります。まさに、それが可能性なんですよね。

両方がそろってこそ

「できること」と「できない経験」は対立するものではありません。

できることを見る → すでにある力を確かめ、自信を育てる

できない経験を支える → まだ伸びていない余白に挑む力を育てる

この両輪がかみ合うことで、子どもの成長はより確かなものになっていきます。

子どもにとっての「できない経験」をどう支えるか。

そして「できること」とのバランスをどう見つめるか。

その問いを忘れずにいることが、私たち大人の役割なのかもしれません。


コラムについて

日々の活動の中で出会った出来事や心に残った一言、小さな気づきを綴っていきます。それぞれの立場にとっての学びやヒントになれば嬉しく思います。

著者プロフィール

こどもサポート はるかぜ 代表 
保護者や子どもたちと日々向き合いながら、運営や経営の立場からも支援のあり方を考えてきました。これまで、人に話すのもためらうような失敗もあれば、思わず飛び上がるような成功も経験してきました。
そうしたリアルな瞬間や運営の中で見えてくる課題を、できるだけ等身大の言葉でお届けしていきます。
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