切り替え上手になるコツ ― 移行をスムーズにする工夫

活動が変わる、その瞬間に

放課後等デイサービスでは、一日の中で「切り替え」の瞬間が何度も訪れます。

おやつから活動へ、自由遊びから帰りの会へ。

この“移行”がスムーズにいくかどうかで、その日の雰囲気が決まることも少なくありません。

「そろそろ片づけてね」と声をかけても、なかなか動けない。

逆に、勢いよく動き出した子がいて場が乱れる。

そんな場面は、きっとどの現場でも日常のようにあるはずです。

けれどこの“切り替えの時間”には、子どもたちの発達や安心感が詰まっています。

ただ動かすのではなく、「気持ちを切り替える力を育てる時間」として見ると、場の見え方がぐっと変わってきます。

なぜ切り替えが難しいのか

大人にとって「次へ進む」は自然なことでも、子どもにとっては大きなエネルギーを使う行為です。

特に「楽しい活動の終わり」や「苦手な活動の始まり」では、心の中で“葛藤”が生まれます。

このとき大人が「もうやめよう」「次いくよ」と急ぐと、気持ちの整理が追いつかず、抵抗や混乱として現れます。

言い換えれば、うまく切り替えられないのは“スイッチが切れていない”のではなく、“気持ちの蓋が閉まりきっていない”のです。

実際、ある男の子は製作活動を終えたあと、いつも次の活動に移るのが苦手でした。

ところが、スタッフが「今日の作品すごいね」「どこを頑張ったの?」と少し振り返る時間を設けたところ、自然に椅子から立ち上がり、次の準備を始めるようになりました。

“終わりを整理する”ことが、“次へのスタート”を支えていたのです。

見通しと余白がつなぐ「流れ」

切り替えをスムーズにする鍵は、予告と余白です。

「あと5分で片づけようね」ではなく、「あと5分で片づけたら、次は○○しようね」と“終わり”の先に“始まり”を見せてあげる。

こうして“終わり”を安心して受け入れられる見通しをつくります。

そして、切り替えの間に“余白の時間”を置くこと。

たとえば片づけのあとに深呼吸をしたり、みんなで短い合図の歌を歌ったり。

「おやつの歌」や「帰りの合図」など、小さな儀式が気持ちのスイッチをやさしく切り替えてくれます。

その余白は、集中と緩和のバランスを整える時間でもあります。

連続して活動を詰め込むと、子どもは“やらされている感覚”になりやすい。

けれど、間に小さな区切りがあると「一度リセットして次に向かう」リズムが生まれます。

「役割」があると切り替えやすい

もうひとつ効果的なのが、役割を通して切り替えを支えることです。

たとえば活動の終わりに「片づけリーダー」や「次の準備係」を任せる。

ただ「終わり」と伝えるより、“新しいミッション”として提示すると、気持ちの方向が自然に変わります。

ある女の子はおやつの片づけが苦手でしたが、「お皿を回収するお手伝いをお願いしてもいい?」と声をかけたところ、嬉しそうに動き始めました。

“片づける”という行為そのものは同じでも、立場が変わると意味が変わるのです。

役割を持つことで、子どもは「終わらされる側」から「関わる側」へと意識が変わります。

それが結果的に、気持ちの切り替えをスムーズにしていくのです。

大人の“切り替えトーン”が場をつくる

忘れてはいけないのは、大人の切り替え方が場全体に伝わるということです。

スタッフが焦った口調で「急いで!」と言えば、場は緊張し、子どもは混乱します。

一方で、落ち着いた声と穏やかな動きで「さあ次にいこう」と伝えると、自然と空気が変わります。

大人自身が「切り替える姿」を見せることも、子どもへの学びになります。

スタッフが作業を終えるとき、「よし、ここまでにしよう」「次はこっちね」と声に出すだけでも、子どもは“終わる流れ”を感じ取ります。

言葉よりも、空気で伝わることの方が多いのかもしれません。

切り替えは「終わり」ではなく「始まりの準備」

子どもにとって、切り替えの時間は“やらされる切り替え”ではなく、“自分で準備する切り替え”になったときに、初めて身についていきます。

終わりを急がず、余白を大切にし、次への見通しを共有する。

その積み重ねが、「自分のリズムで動ける力」につながっていきます。

そしてそのリズムこそが、やがて大人になったときの“セルフマネジメント”の原型になるのだと思います。

切り替えを支えるのは、ほんの数分の関わり。

けれど、その数分の積み重ねが、子どもたちの「次へ進む力」を育てていきます。


コラムについて

日々の活動の中で出会った出来事や心に残った一言、小さな気づきを綴っていきます。それぞれの立場にとっての学びやヒントになれば嬉しく思います。

著者プロフィール

こどもサポート はるかぜ 代表 
保護者や子どもたちと日々向き合いながら、運営や経営の立場からも支援のあり方を考えてきました。これまで、人に話すのもためらうような失敗もあれば、思わず飛び上がるような成功も経験してきました。
そうしたリアルな瞬間や運営の中で見えてくる課題を、できるだけ等身大の言葉でお届けしていきます。
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