道しるべになった保護者の言葉② ― 日常に溶け込む工夫
(前回の続き、「道しるべになった保護者の言葉」)
子どもたちにより良い支援をしたい――。
その思いから、当時の私はABA(応用行動分析)やTEACCHプログラム、ユニバーサルデザイン教育などで学んだ「分かりやすさの工夫」を次々と取り入れていました。
トイレには足あとマークを貼り、ペーパーの使い方をイラストで示す。
逆算式の時計を使って「あと10分で片付け」と知らせたり、片付け場所に写真を貼って「ここに戻す」と伝えたりもしました。
こうした工夫は、支援の基本的な考え方でもあり、多くの現場で取り入れられているのではないでしょうか。
理論の言葉にすれば立派ですが、現場で実際にやってみると想定外のことばかりが起こりました。
足あとシールはすぐに剥がれて掃除の負担になり、イラストは一部の子には遊び道具に。
逆算時計は「もう10分しかない!」と慌てて手を止めてしまい、かえって活動に集中できなくなる子もいました。片付けの写真は物が変わるたびに差し替えが必要でスタッフの手が取られます。
外からは整って見えても、子ども一人ひとりにとって本当に役立っているかは別問題だったのです。
今思えば、これは「専門家しか扱えない仕組み」に近いものだったのかもしれません。必要な子には役立っても、そうでない子には負担になり、スタッフにとっては続けにくい。
支援の工夫が、知らず知らずのうちに“管理するための仕組み”に傾いていたのだと思います。
よりよいツールを否定しているのではないけれど、専門家から見れば「理論を十分に理解していないからだ」と切り捨てられるかもしれません。
ですが経験を重ねるほど、私は「どんどんシンプルになっていく」ことの意味を実感しています。
シンプルであることは、決して間違いではなく、むしろ誰にでも届く工夫へ近づいていくプロセスなのだと思います。
支援の工夫は、理論をどう使うかだけではなく、日常にどう溶け込むかが大切なのだと今では思います。
そんな気づきが、次の工夫につながっていきました。
コラムについて
日々の活動の中で出会った出来事や心に残った一言、小さな気づきを綴っていきます。それぞれの立場にとっての学びやヒントになれば嬉しく思います。
著者プロフィール
こどもサポート はるかぜ 代表
保護者や子どもたちと日々向き合いながら、運営や経営の立場からも支援のあり方を考えてきました。これまで、人に話すのもためらうような失敗もあれば、思わず飛び上がるような成功も経験してきました。
そうしたリアルな瞬間や運営の中で見えてくる課題を、できるだけ等身大の言葉でお届けしていきます。
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