なぜ人は“比べてしまう”のか?
子どもと一緒に過ごしていると、ふとした場面で「ほかの子と比べる」瞬間に出会います。
同じ学年なのに、字がきれいな子がいる。走るのが速い子がいる。話が上手な子がいる。――そんな違いに目がとまるのは、大人も子どもも同じです。
ある日、運動遊びの時間に「どうして自分だけできないの?」とぽつりとつぶやいた子がいました。悔しさや寂しさが混ざったその表情に、胸がぎゅっとなり、その子の姿を見ながら、「どう返してあげたらいいのだろう」と私自身も立ち止まったことを覚えています。
“比べる気持ち”は自然なこと
実は「比べる」というのは、人にとってごく自然な感情です。
子どもは友達の姿を見ながら「自分もやってみたい」と学びを広げますし、大人もまた「ほかの人とどう違うのか」で自分の立ち位置を確かめます。
これは生きるうえで大切な学習の一部とされていて、危険を避けたり、仲間に合わせたりするために必要な力でもあります。
そんなふうに、比べることは安心を探すサイン。
成長のエンジンになることもあります。
だから「比べる=悪いこと」と決めつけるよりも、そこに生まれる感情をどう支えるか。悔しさを和らげたり、頑張る力につなげたりするのが、支援の大切な役割なのだと思います。
支援の場でできること
こうした背景を考えると、「比べないように」と頭ごなしに否定するのではなく、どう扱うかが大事だとわかります。
比べる気持ちは、子どもにとって悔しさや落ち込みを生むこともあれば、「自分もやってみたい」という挑戦心につながることもあります。
ちょっとした関わりで変わる
支援につながるための姿勢はシンプルです。
・受け止める
「そう思ったんだね」「悔しいんだね」と気持ちを言葉にして返すだけで、安心感が生まれます。
・焦点をずらす
「昨日より速く走れたね」「前よりも自分で声を出せたね」と、その子自身の変化に光を当てると、比べる軸が“他人”から“自分自身”へ移ります。
・励ましに変える
「やってみたい気持ちがあるんだね」「次は一緒にやってみようか」と返すことで、比べる気持ちが挑戦のエネルギーに変わります。
それはスタートライン
比べる気持ちは誰の中にもあります。私自身も、子どもたちを見ながら、スタッフ同士を見ながら、ふと比べてしまうことがあります。
でも、その感情を出発点にして「受けとめる」「焦点をずらす」「励ましに変える」という関わりを積み重ねること。
そうすれば、“比べてしまう気持ち”は落ち込みではなく、子どもが次の一歩を踏み出すきっかけに変わっていくのだと思います。
きっとあなたの周りでも、“比べてしまう気持ち”に出会うことがあるはずです。そのとき、そっと思い出してみてください。
補足:なぜ“比べる気持ち”は自然なのか?
社会的比較理論(フェスティンガー, 1954)
人は自分を理解するために、他者と比べる傾向があるとされています。これは学習や成長の場面でごく自然に表れる行動。
発達心理学の視点
子どもは「自分と他者の違い」に気づくことで、協同性や社会性を育む。特に小学生ごろは「友達と同じようにできているか」を意識しやすい時期。
神経科学の視点
脳は「自分の成果」だけでなく「他者の成果」にも反応。そのため“比べる”という行動は生理的にも自然に起きるものといえる。
コラムについて
日々の活動の中で出会った出来事や心に残った一言、小さな気づきを綴っていきます。それぞれの立場にとっての学びやヒントになれば嬉しく思います。
著者プロフィール
こどもサポート はるかぜ 代表
保護者や子どもたちと日々向き合いながら、運営や経営の立場からも支援のあり方を考えてきました。これまで、人に話すのもためらうような失敗もあれば、思わず飛び上がるような成功も経験してきました。
そうしたリアルな瞬間や運営の中で見えてくる課題を、できるだけ等身大の言葉でお届けしていきます。
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