支援のことばを育てる ― 共通言語をつくる試み
私たちは日々、支援の現場でたくさんの言葉を使っています。
「落ち着いてきた」「その子らしい」「がんばれている」
どれも温かい響きを持つ言葉です。
けれど時に、その言葉の“中身”が人によって少しずつ違うことに気づかされます。
「落ち着いてきた」と言ったとき、
ある人は“表情が柔らかくなった”ことを指し、
また別の人は“行動が安定してきた”ことを思い浮かべている。
同じ言葉を使っていても、見えている景色が違う。
この小さなズレが、支援の中ではとても大きな意味を持つことがあります。
言葉の裏にある“感覚”を見つめる
現場の言葉には、経験から生まれた「感覚の記録」がたくさんあります。
たとえば「穏やかになった」という一言の中には、
・声のトーンが落ち着いていた
・手の動きがゆっくりになっていた
・周囲の声に耳を傾ける姿があった
そんな観察がいくつも重なっています。
この“感覚”をそのままにせず、チームで丁寧に言葉にしていく。
それが、共通理解の第一歩になります。
共通言語を「つくる」ではなく「育てる」
支援の現場では、「共通言語を持つことが大切」とよく言われます。
でも実際には、一度決めた言葉がずっと同じ意味で通じるとは限りません。
子どもが変わり、スタッフが入れ替わり、状況が動く中で、言葉もまた変化していきます。
だからこそ、共通言語は“つくるもの”というより、“育てるもの”。
会議や記録の中で、「その子らしいって、どんな時?」とたずね合い、
「落ち着いてきた」を「どんな様子でそう感じたのか」と確かめ合う。
その繰り返しが、チームの言葉を少しずつ耕していくのです。
言葉が文化をつくる
ある日、「落ち着いてきた」という記録を見たスタッフが、
「このときの“落ち着き”って、どういう意味ですか?」と聞いてきました。
最初は少し戸惑いましたが、話していくうちに、
“その子が自分のペースを取り戻している”という共通のイメージにたどり着きました。
そうやって言葉を分解していく時間こそが、
支援の文化を形づくっていくのだと感じます。
マニュアルでも理論でもない、“現場のことば”がそこに芽を出す瞬間です。
言葉の種を残すということ
支援のことばは、使われ続けて初めて意味を持ちます。
「この言葉はよく響くね」と感じたものは、次のスタッフへ、次の世代へと引き継がれていく。
子どもとの関わりの中で生まれた一言が、
やがてチームの共通語になり、
その言葉を通して誰かの支援がまた広がっていく。
そんな循環を思い描くとき、
言葉は“共有の道具”ではなく、“文化を運ぶ種”のように感じます。
今日の記録の一文も、明日の支援を形づくるひと粒になる。
そう思うと、言葉を選ぶ手にも自然と力がこもりますね。
コラムについて
日々の活動の中で出会った出来事や心に残った一言、小さな気づきを綴っていきます。それぞれの立場にとっての学びやヒントになれば嬉しく思います。
著者プロフィール
こどもサポート はるかぜ 代表
保護者や子どもたちと日々向き合いながら、運営や経営の立場からも支援のあり方を考えてきました。これまで、人に話すのもためらうような失敗もあれば、思わず飛び上がるような成功も経験してきました。
そうしたリアルな瞬間や運営の中で見えてくる課題を、できるだけ等身大の言葉でお届けしていきます。
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