小さなトラブルから生まれる学び
私たちは、子どもたち同士の小さなトラブルに毎日のように出会います。
おもちゃの取り合い、順番をめぐる押し合い、思わず出てしまった強い言葉。
大人の目には「些細なこと」に見えても、子どもにとってはその一つひとつが真剣勝負です。
ある日のこと。
絵本の読み聞かせが終わり、「次に読む本を誰が選ぶか」で言い合いが始まりました。
二人ともお気に入りの絵本を握りしめ、譲る気配がありません。
小さな声で「ぼくが先!」「いや、これがいい!」と応酬が続き、場の空気がピリッと張り詰めました。
私も「早く収めて次に進まないと」と思いながら、その日はあえて待つことにしたのです。
大人が割って入ればすぐに片がつくのも分かっています。
沈黙の時間が数秒続いたあと、一人の子が深呼吸をするように肩を落とし、ふっと表情を緩めました。
「じゃあ、今日は○○が選んでいいよ。その代わり次はぼくね」
その言葉に、相手の子も一瞬驚いた顔を見せましたが、やがて小さく「うん」と頷き、本を大事そうに抱えました。
二人のやり取りのあと、場には不思議な静けさと安心感が広がりました。
大人が間に入って「今日は○○、明日は□□」と決めていたら、こんな納得感や充足感は生まれなかったと思います。
大人が与える解決より、子ども自身が導き出した一歩には、何倍もの意味があるのだと感じました。
小さなトラブルは、避けたいものではなく“学びの入り口”です。
感情を出すことも、相手とぶつかることも、その後に「どうするか」を考えることも、すべてが子どもにとっての経験値になります。
それが、人と関わる力の土台になっていくはずです。
あの日は、子どもたち自身から自然に譲り合いの言葉が生まれました。
けれど、いつもそうなるとは限りません。
ときには言い合いが長引いたり、どちらも譲らずににらみ合ったままになることもあります。
そんなときこそ、大人が「押し付ける」のではなく「導く」姿勢が必要だと感じます。
「どうしたらいいと思う?」と問いかけたり、別の方法をそっと提案したり。
子どもたちが自分の力で折り合いをつけられるように関わることが、結果的に一番の学びにつながるのだと思います。
大人にできるのは「正しい答え」を押しつけることではありません。
時には場の乱れを受け止めつつ、子どもたちが自分なりの答えにたどり着けるように支えること。
私たち自身にとっても「待つ勇気」を試される時間です。
あの日の二人の姿は、今も鮮明に覚えています。
トラブルの先に見えたのは、勝ち負けではなく「関わり合いを続けたい」という子どもたちの気持ちでした。
その気持ちに光をあてられるかどうか――それこそが、大人にゆだねられた役割なのだと改めて思います。
コラムについて
日々の活動の中で出会った出来事や心に残った一言、小さな気づきを綴っていきます。それぞれの立場にとっての学びやヒントになれば嬉しく思います。
著者プロフィール
こどもサポート はるかぜ 代表
保護者や子どもたちと日々向き合いながら、運営や経営の立場からも支援のあり方を考えてきました。これまで、人に話すのもためらうような失敗もあれば、思わず飛び上がるような成功も経験してきました。
そうしたリアルな瞬間や運営の中で見えてくる課題を、できるだけ等身大の言葉でお届けしていきます。
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