叱ると認めるの間で
「しつけ」と称して体罰や強い言葉が使われ、苦しい思いを抱えてきた子どもたちもいます。
実際に、虐待として保護されるケースの多くは「しつけの一環」と説明されることも少なくありません。
つまり「叱る」と「しつけ」と「虐待」の境界線は、ときにあいまいに扱われ、子どもに深い傷を残してきました。
その反動から「叱らない子育て」という言葉が注目された時期もありました。
叱る=悪いこと、できるだけ避けたいもの――そんなイメージを持っている方も少なくないでしょう。
けれど現場で子どもたちと向き合っていると、どうしても強いメッセージを伝えなければならない場面があります。
道路に飛び出してしまったとき、友だちを強く押してしまったとき。
大人として、その場で線を引かないわけにはいかないのです。
私もよく「ちょっと言いすぎたかな」と後悔したり、逆に「ちゃんと伝えられただろうか」と迷ったりします。
きっと多くの方が一度は立ち止まったことがあるのではないでしょうか。
振り返れば、子どもの頃に叱られて嫌だった記憶もあります。
でも同時に、叱ってもらったからこそ危険を避けられたり、人との関わりを学べたりした経験も確かにありました。
叱ることは一色ではなく、その奥には守られる安心も潜んでいる――そう感じます。
だからこそ今回は、この「叱る」というテーマを少し掘り下げてみたいと思います。
叱る=子どもを否定することではなく、叱ると認めるの“間”にある関わりこそが大事なのではないか――
そんな視点から、一緒に考えてみませんか。
「注意」と「叱る」の違い
ここで整理しておきたいのが、「注意」と「叱る」の違いです。
注意する=事実を指摘し、やわらかく軌道修正すること
例:「そこは車が来るから危ないよ」「今は静かにしようね」
叱る=大切な線を強調し、社会的な規範を伝えること
例:「道路に飛び出しては絶対にダメ」「人を叩くのはやめなさい」
日常の軽いズレには「注意」で十分。
でも命に関わることや人を傷つける行動には、はっきりとしたメッセージが必要だと思っています。
この区別があるだけで、大人も迷わずに対応できるはずです。
叱ることの意味
叱ることは、ただ感情をぶつけることではありません。
「ここから先は危ない」「これは人を困らせる」という線を引く、大切なサインです。
つまり叱るのは、子どもを否定するためではなく、未来の行動を守るためなのです。
私がこの仕事に就いてすぐのころ、ある大学生サポーターの姿を忘れられません。
一人の世界を大切にしていた女の子が、学校帰りに虫をつかまえ、虫かごに入れて夢中で眺めていました。
ところが別の子が遊び半分でその虫を隠し、手で握りつぶしてしまったのです。
普段は温厚な大学生のサポーターが、そのときだけは顔を赤らめ、震えながら泣いて訴えました。
「もうこんなことはやめよう」
声を荒げたわけではありませんでしたが、その場にいた全員が耳を傾け、言葉の重みを受け止めていました。
私はその光景を見て、「叱る」というのは声の大きさや厳しさではなく、大人の真剣さが子どもに伝わることなのだと強く感じました。
そして隣にいた私自身も胸が熱くなったことを鮮明に覚えています。
「叱れない」という方もいます
一方で、「叱りたいけど声にできない」「強く言うのが苦手」という大人も少なくありません。
でもそれは必ずしもマイナスではないと感じます。
叱るのが苦手な分、子どもを認めたり寄り添ったりする関わりに力を注げる人も多いからです。
大事なのは「すべてを叱る必要はない」ということ。
命に関わること、人を傷つけることはしっかり線を引く。
それ以外は「注意」や「提案」に置き換えることで十分に支援になります。
認めることの意味
叱ってばかりでは、子どもは「自分はダメなんだ」と感じてしまいますよね。
だからこそ、その中に「認める」視点を差し込むことが欠かせません。
「危なかったけど、最後まで片づけようとしたのはよかったね」
「友だちに手が出ちゃったけど、そのあと謝ろうとしたね」
一つの出来事の中にも“できた部分”を見つけて言葉にする。
それだけで子どもの受け取り方は大きく変わります。
その間にあるもの
叱る=行動の境界線を伝えること。
認める=その子の挑戦や工夫に光をあてること。
どちらか一方では偏ってしまいますが、その間にある“揺れ”を意識できると、子どもにとっての安心や挑戦につながります。
そして私自身もまた、その間で揺れながら学び続けているのだと実感します。
叱ると認める――そのはざまで迷いながらも、一緒に歩んできた時間の中にこそ、子どもとの信頼を育てる力があるのだと思います。
コラムについて
日々の活動の中で出会った出来事や心に残った一言、小さな気づきを綴っていきます。それぞれの立場にとっての学びやヒントになれば嬉しく思います。
著者プロフィール
こどもサポート はるかぜ 代表
保護者や子どもたちと日々向き合いながら、運営や経営の立場からも支援のあり方を考えてきました。これまで、人に話すのもためらうような失敗もあれば、思わず飛び上がるような成功も経験してきました。
そうしたリアルな瞬間や運営の中で見えてくる課題を、できるだけ等身大の言葉でお届けしていきます。
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