道しるべになった保護者の言葉④ ― 写真から始まった新しい関わり

(シリーズでお届けしています)

 第1回目はこちら:道しるべになった保護者の言葉
 第2回目はこちら:支援がシンプルに戻っていく
 第3回目はこちら:おやつをめぐる試行錯誤


思い切って手を止めたことで、逆にやりとりが生まれたのです。
では、そのあとどうしたのか――

写真で示すという工夫

次に試したのは「写真を掲示する」という方法でした。
これは特別な工夫というよりも、実は多くの現場で当たり前のように行われているやり方です。
私自身も、いろいろ試した末に“新しい方法に行きついた”というよりは、むしろ元に戻ったような感覚でした。
実物を置く必要がなくなり、余計な刺激も減ります。「今日のおやつはこれ」と掲示すると、子どもたちは自然に写真を見て確認するようになりました。

コミュニケーションの広がり

やがてこれは日課となり、子どもたちは当たり前のように写真を見て「今日は何?」と確かめるようになりました。
「これ、○○だよね」と友だち同士で教え合う。
「今日は好きなやつだ!」とスタッフに伝える。
「昨日と違うね」と比較して気づきを口にする。

その声をきっかけに周囲の子も写真をのぞき込む。「ほんとだ」「いいなあ」と反応が返ってくる。
やりとりが連鎖するうちに、ちょっとした立ち話のようなやわらかい雰囲気が広がっていきます。

ふと見ると、そこには特別な支援の仕組みではなく、ごく自然な日常の風景がありました。
写真は単なる「情報を伝えるツール」である以上に、「関わりを育むきっかけ」として場に溶け込んでいったのです。

今の形はさらにシンプルに

しばらくして、写真掲示すらも省くようになりました。
今では、配膳の準備物はキッチンのカウンターにそのまま置いておくだけ。
子どもたちは気になれば自分でのぞき込みに来ますし、そうでなければ「何があるの?」と誰かに尋ねます。

効率を重視した変化でした。準備しておけばすぐに配膳ができ、子どもたちにお願いすることもできます。現場の動きをスムーズにするための合理的な方法だったのです。

ただ、そのとらえ方には少し幅があります。
経験のあるスタッフにとっては「自然なやりとりの一部」として腑に落ちるものでしたが、一方で、キャリアの浅いスタッフには「やるように言われたからやる」という感覚もありました。

それでも子どもたちと一緒に関わるうちに、ただの作業だったものが少しずつ意味を持ち始めていきます。
「一緒に見に行く」「教えてあげる」という原体験を通して、自然な距離感で関わることの大切さを体感していくのです。

“伝える”から“関わる”へ

支援の工夫、最初は「どう伝えるか」を考えるところから始まります。
けれど試行錯誤を経て気づいたのは、最後に残るのは「どう関わるか」だということでした。

写真や実物はきっかけにすぎません。

子どもたちにとっては「見る」「聞く」という行動自体が大切なコミュニケーションでした。

支援は特別な仕組みではなく、日常に自然に溶け込む関わりへ戻っていく。
おやつの取り組みは、そのことを改めて私に教えてくれました。

そして社会に出てからは、必要な情報が必ずしも揃っているとは限りません。
だからこそ、自分で確かめたり、誰かに聞いたりする経験はとても大切です。
支援の工夫を超えて、日常の中で生きる力へとつながっている――そう実感しています。

工夫は形を変えていきますが、最後に残るのは人と人の関わり。
視覚化したツールはただのきっかけにすぎず、そこで交わされる声やまなざしこそが子どもたちを育てていく。


その気づきは、私にとって今も日々の道しるべになっています。


コラムについて

日々の活動の中で出会った出来事や心に残った一言、小さな気づきを綴っていきます。それぞれの立場にとっての学びやヒントになれば嬉しく思います。

著者プロフィール

こどもサポート はるかぜ 代表 
保護者や子どもたちと日々向き合いながら、運営や経営の立場からも支援のあり方を考えてきました。これまで、人に話すのもためらうような失敗もあれば、思わず飛び上がるような成功も経験してきました。
そうしたリアルな瞬間や運営の中で見えてくる課題を、できるだけ等身大の言葉でお届けしていきます。
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